第9話 特例事業承継税制の概要

■■■特例事業承継税制の概要

2018年9月25日 中小企業診断士 田中 均

■■相続時精算課税制度

贈与税には、「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」の2つの制度があります。

「暦年課税制度」の場合、毎年110万円の基礎控除額があり、それを超えた部分に対し10%~55%の累進税率で課税され、一般に相続税に比べ税額は高額となります。

  一方、一度に多額の贈与を行いたい時や、将来の値上がりが見込まれる株式や不動産に関しては「相続時精算課税制度」という選択肢もあります。

■相続時精算課税制度の概要

贈与者 満60歳以上の父母・祖父母(父、母、祖父、祖母ごとに選択できます)
受贈者 満20歳以上の子・孫(兄弟姉妹ごとに選択できます) ※上記の年齢は、いずれもその年の1月1日時点
課税制度の選択 例えば、父からの贈与は「相続時精算課税制度」、祖父からの贈与は 「暦年課税制度」というように、各人からの贈与を自由に組み合わせて制度を選択できます。
届出 「相続時精算課税制度」を選択する場合は、届出が必要です。 →相続時まで継続適用され撤回できない(暦年課税制度には戻れない)ことに留意する必要があります。
控除額 特別控除額2,500万円(上限に達するまで、複数年も可能です) →父からの贈与に2,500万円、母からの贈与に2,500万円等、各人からの贈与に対し別々に控除されます。
税率 特別控除額を超えた部分に対し、一律20%
相続時の清算 贈与された財産は(贈与時の価額で)相続財産に合算されます。 支払った贈与税は相続税から控除され、二重課税になる事はありません。

 後継者に資産を移転させる場合、暦年課税制度を選択すれば、毎年110万円の基礎控除がありますが、その範囲内では非常に長い年月が必要になります。また、それを超える部分には高額の贈与税が課税されます。

 相続時精算課税制度を選択すれば、2,500万円を超える部分に関する税率は一律20%であり、支払った贈与税は相続時に精算されますので、二重課税になる事はありません。

 また、株式や不動産等将来の値上がりが見込まれる場合でも、贈与時の価額で相続財産に合算されますので、税の軽減効果が期待できます。

■非上場株式等に対する贈与税の納税猶予制度と相続時精算課税制度

「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」は、平成20年に成立した後何度か見直しが行われ、平成29年1月1日以降は「相続時精算課税制度」を選択した場合でも、非上場株式等に関する贈与税の納税猶予制度の対象とされることになりました。

 これにより、贈与後に後継者の納税猶予が打ち切りになった場合でも、贈与税の負担は相続時精算課税制度の贈与税となりました。((株式評価額-2,500万円)×20%))

→これ以前は、暦年課税制度で計算されていたため、後継者が納付すべき贈与税額が高額になるおそれがあり、贈与税の納税猶予の選択を躊躇させる要因となっていました。

■特例事業承継税制と相続時精算課税制度

 相続時精算課税制度は、60歳以上の贈与者から20歳以上の推定相続人や孫に対する贈与に対して適用される制度ですが、特例事業承継税制では「20歳以上の推定相続人以外の者(第三者である役員や従業員等)」に対する非上場株式等の贈与に対しても適用されるようになりました。

→相続時精算課税制度により第三者に非上場株式等を贈与した場合、その金額は相続財産に合算されて相続税が計算されます。この為、贈与を受けていない相続人の相続税が増加する事に留意する必要があります。(支払った贈与税は相続税から控除されますので、二重課税になることはありません)

以上