第6回 2.2 事業承継前の手続き(資産面からの計画)
個人事業主においては、事業用資産は経営者個人の所有に属しており(又は 経営者個人が賃借)、事業の継続に必要な資産について、個々に後継者へ承継する必要があります。 個人事業主が保有する事業用資産は、土地・建物の不動産が約6割を占めています。
この土地・建物について、例えば店舗兼住宅といった形で経営者個人の用と事業の用という二つの用途に用いられている資産もあるため、事業用資産の承継のみならず、現経営者の個人資産の承継についても同時に準備しなければならないことが多くあります。
以下、事業用資産の種類(性質)そして親族内(推定相続人)承継について説明します。
(1)不動産の計画
①事業用として独立している場合(店舗、工場単独)
土地については適正な価格を算定する必要があります。よく土地の価格は以下のように一物五価と言われます。
●公示価格
国土交通省が発表する土地売買の目安となる価格。毎年1月1日を基準日として、3月に発表されます。
●基準地標準価格
都道府県が発表する土地売買の目安となる価格。公示価格を補う目的で、毎年7月1日を基準日として9月に発表されます。
●路線価
国税庁が発表する相続税・贈与税の目安となる価格。毎年1月1日を判定の基準日として評価するもので、7月に発表される。公示価格の80%相当が概ね評価水準です。
●固定資産税評価額
市町村が発表する固定資産税を支払う基準となる価格。3年に一度の評価替えがあり、前年の公示価格の70%相当が評価水準です。
●実勢価格
実際に土地の売買が行われる価格。
上記のようにどの価格で承継するかを決めておく必要があります。
ただし、贈与あるいは相続の場合には、路線価の評価を使わないといけません。
建物については事業の用に供している部分、即ち確定申告書における「○減価償却費の計算」「㋦未償却残高」の欄の価格で承継することが妥当であると言えます。
ただし、贈与あるいは相続の場合には、固定資産税評価額を使わないといけません。
その価格が高額である場合は後継者が購入することは現実的ではないものと思われます。この場合は後継者が先代事業主から貸借する形で承継することが自然です。そして親族内承継の場合、相続発生まで待つこととなります。
②先代事業主の個人の用と事業の用という二つの用途に用いられている場合(店舗兼自宅、工場兼自宅、等)
この場合も後継者が先代事業主から事業用部分を貸借する形で承継することが妥当であると思われます。賃貸借か使用貸借にするかは前述の先代事業主の処遇や後継者の権限移譲の程度によってケースバイケースで決めていくべきことであると考えます。相続発生時のトラブルを回避するために遺言によって承継を明確にしていくのも有効です。
(2)動産の計画
動産についても事業用については「○減価償却費の計算」「㋦未償却残高」の価格で承継することが妥当であると考えます。簿価が低い場合は一括で贈与か売買ですが先代の貸借対照表は正しく処理する必要があります。
(3)売掛債権の計画
売掛債権については先代の責任において回収し後継者に引き継がないことが原則的な考え方です。また回収が難しい不良債権は先代が損失処理します。
(4)貸付金等雑資産の計画
貸付金が存在する場合はその回収可能性を先代と後継者でよく見極めることが第一であることは言うまでもありません。その上で回収可能であれば、先代の責任で回収し、回収不能の見込みであれば先代が損失として処理をして後継者には引き継がないようにしましょう。
(5)商品・製品・原材料等(以下「在庫」)の計画
承継時以降の仕入に基づく在庫は後継者の所有になるよう先代事業者は在庫を使い切るよう調整することが第一です。しかしながらそれでもなお承継時に残る在庫についてはその内容を見極める必要があります。時間がかかっても処分可能な正常在庫は後継者が引き継ぐことになります。引き継ぐ形態としては贈与か売買があります。買入債務との調整で課税対応を検討する必要があります。
承継時に残置する処分不可能な不良在庫については先代事業主が原価算入若しくは廃棄・除却することになります。これらは事業内容により様々ですのであらかじめ先代事業主と後継者で詰めておくことが必要です。
(木山 良裕)