第7回 2.3 事業承継前の手続き(資産移転のスキーマ)

2.3 事業承継前の手続き(資産移転のスキーマ)

親族内承継の資産移転のスキームについては贈与・相続によるものが一般的と言えます。この場合は税負担の対応が求められます。
以下では、基本的な制度等について、概括的に紹介します。
いずれの手法も一長一短があり、個別具体的な事案において最も適合的な手法を採用する必要があります。また、手法によっては前もっての準備が必要な場合もあります。

(1)暦年課税贈与

財産を生前贈与する場合、贈与税が課税されます。いわゆる暦年課税贈与を活用する場合、年間 110 万円の基礎控除を受けることができます。
一方、税率は 10% ~55%の累進課税であるため、事業用資産の評価額が高い場合は贈与税も非常に高額となり、後継者に多くの資産を贈与することは困難です。または長期間を要することとなります。

(2)相続時精算課税贈与

生前贈与を行う場合、上記の暦年課税贈与によることが原則ですが、受贈者の選択により、「相続時精算課税制度」の適用を受けることもできます。
同制度の概要は以下のとおりです。
・相続時精算課税を選択できるのは(年齢は贈与の年の 1 月 1 日現在のもの)、 贈与者が 60 歳以上の父母又は祖父母であり、受贈者が 20 歳以上かつ贈与者の推定相続人である子又は孫に該当する場合。
・贈与税は特別控除により累積で 2,500 万円までは課税されません。
・贈与額が 2,500 万円を超えた場合、その超えた部分については一律 20%の 贈与税が課税されます。
・贈与財産の価額は、贈与者について相続発生時に、相続財産の価額に合算され、相続税において精算されます。(贈与時に贈与税を納付していた場合、 納付すべき相続税額から控除される。)。
ただし、一旦相続時精算課税制度を選択すると、その後同一の贈与者からの贈与については同制度が強制適用され、暦年課税制度によることができないため、注意が必要です。また、贈与者の相続時には、贈与財産の贈与時の価額 が相続財産に合算されるため、贈与財産の価額が相続時に上昇した場合には有利に、下落した場合には不利に働きます。
具体的に例示しますと、土地や上場株式等、将来価値が上昇する可能性のある資産に対しては有利に働くことが見込まれますが、建物や動産など減価償却や経年劣化で価値が必ず下落する資産に対しては不利に働きます。

従って暦年課税制度と相続時精算課税制度のいずれによるかは、贈与が可能な期間や所有財産の価額の動向を勘案して慎重に選択する必要があります。

(3)個人版事業承継税制

令和元年度税制改正により創設された個人版事業承継税制は、青色申告(正規の簿記 の原則によるものに限ります。)に係る事業(不動産貸付業等を除きます。)を行っていた事業者の後継者として円滑化法の認定を受けた者が、平成31年1月1日から令和 10年12月31日までの贈与又は相続等により、特定事業用資産を取得した場合は、 ① その青色申告に係る事業の継続等、一定の要件のもと、その特定事業用資産に係る 贈与税・相続税の全額の納税が猶予され、 ② 後継者の死亡等、一定の事由により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納税 が免除されるものです。
個人版事業承継税制については別の章で詳しく説明します。

(4)売買による移転

先代から後継者への資産の移転の方法としては、贈与の他に売買も考えられます。この方法のメリットは、適正価格での売買であれば税金が発生しないという点です。ただし、売買価格が適正でないと、適正価格との差額が贈与として認定され贈与税が課税されますので注意してください。

また、多くの場合、後継者に先代の資産を買い取るほどの多くの金融資産を持っているケースは多くないので、この方法が採用されるケースはあまり多くありません。ただし、資産と負債をうまく組み合わせて、少ない金額で買取が可能な場合もありますので、このような場合には買取も検討して良いと思います。

(木山 良裕)