2.5 事業承継前の手続き(金融機関との相談)

現経営者の借入金を後継者が引き継ぐ場合には、金融機関との交渉が必要になります。

(1)資金使途の確認

金融機関に相談する前にまず確りやっておくべきことは「借入れた資金が本当は何に使われたか」を確認することが必要です。
事業性借入の資金使途は概ね以下に大別されます。
a)設備資金
土地・店舗・工場・機械什器・車両等の購入資金です。これは比較的わかり易いですが、購入した物(融資対象物件)が存在するか、適正な価値(残存価値)があるかを後継者は見極める必要があります。
b)運転資金
事業継続の為に借入れた資金です。立替が発生する業態で必要となります。
立替資金は通常
  売上債権+在庫-買入債務=立替資金(所要運転資金)
で計算されます。
この立替資金と現金預金及び正常な売掛債権・在庫の合計が借入金残残高と見合っていれば概ね適正と判断できますが、借入金残高の方が多い場合は「何に使ったのか?」を確認する必要があります。
・機械等の設備投資に使っている:これは実質a)の設備資金ですから当該設備の価値を勘案すればよいでしょう。
・事業とは直接関係のないもの(有価証券・ゴルフ会員権・保険商品)に使っている:承継時までに売却・解約して当該部分の返済を検討する必要があります。
・人件費、経費に使っている:これは過去、売上では払えなかったことを意味し赤字を補填したものと言えます。先代事業者の責任を踏まえて後継者は債務承継するかどうかを判断することが必要です。

いずれにせよ、先代事業者は後継者に包み隠さず開示することが重要です。その上で原則的な考え方は先代が債務を完済し後継者には背負わせないことですが次の二つの場合の考え方について説明します。
<資産と借入金が同程度の金額で概ねバランスしている場合>
資産と借入金をセットで贈与なり売却・引受すれば贈与税負担又は資金負担は軽いものと言えます。具体的には仮に資産(建物・設備等)1,100万円、借入金1,000万円であれば差額の100万円が贈与税または資金負担の対象になります。
(贈与であれば前述第7回2・3(1)暦年課税贈与の基礎控除範囲内となります。)

<資産より借入金の方が多大な場合>
借入金が多大な場合、先代の生前に借入金のみを後継者に移転することは先代に贈与税が発生してしまい現実的とは言えません。
相続発生まで待つべきです。
以下に相続発生時の金融機関との交渉について説明します。

(2)金融機関との交渉・・・親族内(相続人)承継

相続発生時において、事業承継に伴う債務の承継については前述の資金使途を確認した上で後継者がその全てを引き継ぐのかまたは限定的に引き継ぐかによって変わってきます。
a)債務引受による債務の継承・・・相続人が全て引き継ぐ
後継者(引受人)が先代事業主(債務者)の借入を金融機関(債権者)の承認のもと、文字どおり、借入を引受けることで、借入契約毎の債務引受契約(金融機関によって名前は様々)を締結します。
従来の契約を引き継ぐものですから毎月の返済額・金利なども従来どおりです。
担保や保証人がついていればこれも後継者に移転されます。

また、債務引受には免責的債務引受と併存的債務引受の2種類があります。
*免責的債務引受(交換的債務引受、免脱的債務引受)とは
債務が当初の債務者と債権者以外の人へ移転し、当初の債務者が債務を負担しなくなる形態の債務引受。免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は債権関係から離脱して自己の債務を免れる。
*併存的債務引受(重畳的債務引受、添加的債務引受)とは
債務が当初の債務者と債権者以外の人へ移転し、移転後も当初の債務者が引き続き債務を負担する形態の債務引受。併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。
当然、免責的債務引受で交渉すべきですが先代事業主が存命の場合、併存的債務引受を提案される場合がありますので注意が必要です。

b) 債務者の交替による更改・・・相続人が資産見合いで限定的に引き継ぐ
債務者の交替による更改の場合には、債務引受けとは異なって債権がいったん消滅して新たに発生するため、債務の内容は同じであっても債務としての同一性はありません。
具体的には後継者が新たに借り入れた資金で先代事業主が返済する形をとります。限定的に債務を引受たり、返済条件や担保・保証人を変更したい場合はこの形態で交渉を進めます。

c)担保について
不動産が担保提供されている場合は債務引受においてもこれは引き継がれます。前述第6回2.2(1)不動産の計画を検討する際に注意が必要です。一般に債務引受のみをもって金融機関が担保解除に応じることは稀です。

d)保証人について
別途保証人がいる場合(先代事業主の配偶者等)はこれを解除する方向で交渉を進めます。
令和元年12月から摘要となった「事業承継時に焦点を当てた経営者保証に関するガイドラインの特則」では「事業承継時の経営者保証の取扱いについては、原則として前経営者、後継者 の双方から二重には保証を求めないこととし、後継者との保証契約に当たっては経営者保証が事業承継の阻害要因となり得る点を十分に考慮し保証 の必要性を慎重かつ柔軟に判断すること、前経営者との保証契約について は、前経営者がいわゆる第三者となる可能性があることを踏まえて保証解除に向けて適切に見直しを行うことが必要である。」とあり、二重保証は例外的な扱いとなっています。
しかしながら、 「 また、こうした判断を行うに当たっては、経営者保証の意味(規律付けの具体的な意味や実際の効果、 保全としての価値)を十分に考慮し、合理的かつ納得性のある対応を行う」との記載もあり、「担保に供している不動産の所有(先代の配偶者が担保物件を保有若しくは相続する場合)」且つ引き続き経営に参画していると見做せる場合などの状況次第では二重保証を求められる可能性もあります。
個別ケースバイケースのもあるので中小企業診断や税理士等専門家に相談して下さい。

(木山 良裕)