第10回 2.6 事業承継時の手続き(先代の廃業手続き)
事業承継を行うとは、先代が廃業し、後継者が開業し、先代の個人事業を後継者が開業した個人事業に引き継がせることです。事業承継後に、事業に関係する公的機関、取引先、従業員等がスムースに事業を継続できるようにするために、先代と後継者はいろいろな手続きを行う必要があります。
この章では、期限が設定された多くの手続きを行う必要があることを理解していただき、更に相続時の事業承継では、相続人(後継者)の負担が大きいことを実感していただけると思います。後継者の負担を軽減するためにも、早めの事業承継の準備をしてください。
この章の構成は、先代が行うことと、後継者が行うことに分けて説明します。また、実際に手続きを行う時点で参考となるURLを記載いたしました。内容は、令和4年1月調査に基づいています。
2.6 事業承継時の手続き(先代の廃業手続き)
(1)所轄税務署関係の手続き
個人事業においては、法人と異なり、個人が所得税、消費税などの納税義務者となりますので、事業承継前と同一の顧客に対して同一の屋号を用い、同じような商品やサービスを提供している、つまり事業内容は同一であったとしても、先代は先代、後継者は後継者でそれぞれ別々の納税義務を負うことになります。先代が事業主として個人事業を主宰していた期間については、先代がその事業から生じる諸々の納税義務を負い、後継者が引き継いでから後の期間については、後継者が納税義務を負います。よって、先代は廃業にともなう税務上の手続きが必要となり、後継者は開業にともなう税務上の手続きが必要になります。
ここでは、廃業の場合の税務署に関する手続きを説明します。開業の手続きについては、2.7 事業承継時の手続き(後継者の開業手続き)を参考にしてください。
- 所得税に関する手続き
所得税に関係する手続きは、「個人事業の廃業届書」を税務署に、事業の廃業の事実があった日から1ヵ月以内に提出します。相続の場合は、相続人が提出します。
【参考】「個人事業の開業・廃業等届出書」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
廃業して、先代の収入がなくなる場合は、「所得税の青色申告書の取りやめ届出書」の提出が必要になります。青色申告を取りやめようとする年の翌年3月15日までに提出します。ただし、アパートなどを経営していて、廃業後も所得がある場合は、提出不要です。相続の場合は、相続人が手続きを行います。
【参考】「青色申告の取りやめ届出書」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/23200008.htm
- 消費税に関する手続き
免税事業者(注)以外は必ず「事業廃止届出書」を提出します。事由が生じたあと、1ヵ月以内に提出します。相続時は、相続人が提出します。
事業廃止により、「消費税課税事業者選択不適用届出書」、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書 」のいずれかの届出書に事業を廃止した旨を記載して提出した場合には、他の不適用届出書等及び事業廃止届出書の提出は不要です。また、「事業廃止届出書」を提出した場合には、これらの不適用届出書等の提出は不要です。
(注)免税事業者とは、消費税の納税義務がない事業者のことです。
【参考】「事業廃止届出書」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/1461_06.htm
- 消費税課税事業所選択不適用届出書、消費税簡易課税制度不適用届出書
課税事業者を選択している先代が事業を廃止した場合、「消費税課税事業所選択不適用届出書」を、簡易課税制度を選択している先代が事業を廃止した場合、「消費税簡易課税制度不適用届出書」の提出が必要となります。
相続時は、提出は不要です。
【参考】
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6603.htm
- 給与事務所の廃止の手続き
事業の廃止の事実があった日から1ヵ月以内に「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を提出します。「個人事業の廃止等届出書」を出していれば不要です
【参考】https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_11.htm
- 所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額手続き
先代の事業に対して、予定納税が適用されている場合は、先代が廃業したあとの所得は予定よりは少なくなると考えられるので、所得税および復興特別所得税の予定納税額の減額申請をすることにより、予定納税額を減額することが可能です。
相続の場合は、準確定申告で対応しますが、先代の死亡日によって対応が異なります。
死亡日が6月30日以前の場合は、予定納税の義務がなくなりますので、準確定申告書への記載は不要です。
死亡日が7月1日以降の場合は、予定納税を実際に納付しているかどうかに関わらず、申告納税額から予定納税額を差し引いた形で準確定申告書に記載します。
提出時期が限定されているので、下記URLで確認してください。
【参考】
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/02.htm
- 個人事業税
「個人事業税」は、所得税の確定申告や住民税の申告をしていれば申告・納税する必要はありませんが、年の途中で廃業した場合は、廃業後10日以内に個人事業税の申告・納税手続きが必要です。
(2)都道府県の手続き
税務署への廃業届とは別に、都道府県税事務所に「事業開始(廃止)等申告書」の提出が必要です。書類や提出期限は都道府県により異なります。
相続時は、相続人が提出します。
【参考】東京都の場合
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/scene/index05.html#L2
(3)許認可事業の廃業届の手続き
飲食業や旅館業、建設業、美容・理容業などの個人事業主の場合、許可を受けている所轄行政庁に対して廃業届の提出が必要となります。ただし、相続が絡む場合の承継は、許認可によって対応が異なります。例えば、令和2年10月1日の建設業法改正の施行により「建設業許可の地位の承継」という手続きが新たに生まれました。この制度の概要は、「個人事業主の死亡に際し、相続人である後継者が30日以内に「相続の認可の申請」を行い、認可を受ける事で当該相続人が被相続人の建設業許可を承継する事ができる。」という内容です。食品営業の許認可の相続による承継の場合も、地位の承継が可能となります。
【参考】東京都の場合
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/kyokatodokede/youshiki.html
(4)事業用資産の移転手続き
事業用資産に償却資産(機械、設備、工具、器具等)が含まれる場合は、廃業時に償却資産の申告が必要となります。東京都の場合、資産の所在する区にある都税事務所に申告します。詳しくは、以下を参照してください。
相続時は、資産を引き継ぐ人が申告します。代理人(例 税理士)も可能です。
【参考】
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/shisan/info/R3_shinkokutebiki.pdf
(大岡 浩一)